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東京高等裁判所 平成3年(ネ)4330号 判決

控訴人 許彰

同 許洋子

同 李洙甲

同 許三男

同 許順子

右五名訴訟代理人弁護士 平野智嘉義

同 松田弘

右訴訟復代理人弁護士 萩原道雄

被控訴人 許東

右訴訟代理人弁護士 池下浩司

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決を取り消す。本件を横浜地方裁判所に差し戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、本件訴えは不適法であるから右訴えを却下すべきものと判断するが、その理由は以下に補足するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  本件訴えは、亡許発の共同相続人である控訴人らと被控訴人間において、原判決別紙物件目録記載の借地権が、亡許発の相続財産とみなされることの確認を求めるものであるが、控訴人らは本件訴えは適法であると主張し、被控訴人はこれを否定するので、まず、本件右訴えの適否について判断する。

2  民法九〇三条一項にいう「みなし相続財産」とは、被相続人が相続開始時に有した相続財産に相続人が被相続人から贈与を受けた財産の価額を加えたものというのであるから、それは、法規定の中に定立された具体的相続分確定のための一つの要件ないし要素にすぎず、いわば共同相続人の具体的相続分算定の操作過程において、観念的に把握され考慮されるべき抽象的要素でしかなく、現実に存在する相続財産についての具体的存在物ないし具体的権利ではないと解するのが相当である。

ところで、控訴人らの主張によれば、亡許発の共同相続人間で遺産分割協議が調わなかったため家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てる前提問題として、本件訴えを地方裁判所(第一審)に提起したというのである。しかしながら、遺産分割が当事者間の協議で定まらない場合、その分割の手続は家庭裁判所の専権事項に委ねられているのであるが、これに先立ち、地方裁判所(第一審)において、本件借地権が「みなし相続財産」であることの確認がされたからといって、その判決の効力によりその後に開始される家庭裁判所における遺産分割審判手続において当該特定の相続人ないし共同相続人の具体的相続分が確定されることになるものではない。すなわち、共同相続人の具体的相続分が確定されるには、家庭裁判所における遺産分割審判の過程において、各相続人の特別受益及び寄与分のすべてを確定することが必要不可欠であるから、仮に、先に特定の相続人の特別受益、すなわち特定の「みなし相続財産」の存否だけを民事争訟事件の判決をもって確定したとしても、この判決の既判力により直ちに、家庭裁判所による具体的相続分の最終的な確定が可能になり、共同相続人間の遺産分割に関する紛争が抜本的に解決されることにはならないのである。

3  控訴人は、本件訴えは、共同相続人間において特定財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める、いわゆる「遺産確認の訴え」と同様の趣旨、性質をもつことを理由として、この種訴えは適法であると主張する。

しかしながら、遺産の範囲確認の訴えは、端的に、当該財産が現に被相続人の遺産に属すること、すなわち、当該財産が遺産分割に対象たる財産であることを既判力をもって確定し、これに続く遺産分割審判の手続において及びその審判の確定後に当該財産の遺産帰属性を争うことが許されず、もって、訴え提起した者の意思にかなった紛争の解決を図ることができるところから、かかる訴えは適法と認められているのである(最高裁判所昭和五七年オ第一八四号遺産確認請求事件、昭和六一年三月一三日第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁参照)。これに対し、本件のような「みなし相続財産」であることの確認を求める訴えは、前示のとおりのものであるから、当該財産が共同相続人の特別受益財産であり、したがって、被相続人の相続財とみなされるべきものと確定されても、なお、共同相続人の具体的相続分を確定させるには至らず、この訴えにより遺産分割当事者間の紛争の抜本的解決を期待することができないことは先に述べたところである。したがって、両訴えは、その趣旨、本質、紛争解決機能を異にするものであり、遺産範囲確認の訴えが適法と目されているからといって本件訴えも同様に適法と目されるはずとは到底いうことができない。控訴人らの主張は、採用することができない。

4  そうすると、本件訴えは、確認訴訟の対象たる適格を欠くものとして不適法であるというべきであり、却下を免れない。

二  よって、控訴人らの本件訴えを却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用につき民訴法九五条、九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 伊藤瑩子 裁判官 福島節男)

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